京都工芸繊維大学工芸科学部 生命物質科学域高分子機能工学部門 高分子物性工学研究室

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    [2024.3] ナノ粒子に対応した2022年の動的超音波散乱(DSS)法の大幅な技術革新に続いて、2024年に濃厚系のDSS解析の論文を発表しました。

    [2024.3] 電気泳動超音波散乱(ESS)法の論文を発表しました。

    [2022.10 ] 1個の粒子の硬さを液体中で測定する超音波スペクトロスコピー法は古くから濃厚系エマルションを解析する手法として知られていますが、必要なパラメータが多い上、想定とは異なる結果を出すことが問題でした。我々は、液滴、固体粒子はもちろん、液体と固体の両方の性質を有する粘弾性微粒子にも使える手法を考案しました。市販の装置ではアクセスが困難な、粒径、弾性率、ゼータ電位の同時評価が可能です。

    [2022.7 ] ついに、動的超音波散乱(DSS)法が、ナノメートルの空間分解能に到達しました。半径15nmの微粒子を2分ほどで計測します。液体中そのままの状態で分析が可能で、かつ濃度や試料の外観に制限はありません!金属ナノ粒子など、貴重な試料の分析にも優しく、必要試料量はわずか20μLです。

    [2017.3 ] 電気泳動動的超音波散乱法(ESS)の特許出願を行いました。液中そのままの状態で、(1)粒径分布、(2)粒子1個の弾性率に加えて、(3)粒子の安定性解析(ゼータ電位測定)を同時に評価できるようになりました。ナノメートルからマイクロメートルの幅広いスケールを同時に一望でき、かつ濃厚系試料を希釈せずに、かつリアルタイムで解析可能です。

    [2015.10 ] 堀場雅夫賞をいただきました。どうもありがとうございました。大変感謝しております。

     なお、最近の研究成果のダイジェストは、以下の通りです。

    12. 電気泳動動的超音波散乱(ESS)法

    ゼータ電位の新測定法![特願2017-39775][2024]

    • 超音波を使う新しいゼータ電位測定法を開発。光(ELS)の場合、10万倍もの希釈を余儀なくされることが多いですが、濃厚溶液をそのままの状態で分析できる画期的技術が誕生しました。
    • CVIやESAなど既存の超音波技術のように事前情報を必要としません。ELSを超える新技術として期待されます。

    11. 感熱応答ゲル微粒子

    温度応答性微粒子ゲルの水中における粒径分布と弾性率 [2017]

    •  微粒子ゲルの散乱を考慮したモデルで減衰率と音速を解析し、粒径分布と弾性率を温度の関数で評価することに成功しました。

    10. 粘性波と熱波

    縦波・粘性波・熱波を考慮した超音波スペクトロスコピー。ナノ粒子対応![2017]

    •  粒子径が小さくなると、超音波の縦波に加えて、粘性波が熱波を考慮する必要があるので、全てのモードを考慮した解析システムを新規開発。
    •  ミクロン粒子からナノ粒子まで幅広い領域の精密解析が計測可能になりました。市販の超音波吸収測定装置と異なり、カプセルや被覆などの構造までわかります。

    9. ナノDSS

    いよいよナノ粒子へ! [2017][2022][2024]

    •  30 nm以下のナノ粒子計測に成功。
    •  サブミクロン領域で、沈降がカップリングしても正しい粒径評価に成功しました。

    8. 超高精度DSS

    大幅な精度向上![2016]

    • FD-DSSの発展で複素型の相関関数法を新たに開発しました。FD-DSSのコンセプトにより、波長分布のあるブロードバンドパルスを個々の周波数成分に分解。それぞれの成分は、単体の波長しかももたないため、波長決定が厳密化され、運動速度の解析精度が1%以内と、従来の10倍以上も向上しました。
    • 精密測定が可能になることで、わずかな粒径の違いを直接計測して識別可能となり、その結果、新しい粒径分布解析法の開発に成功しました(従来法のような逆ラプラス変換に頼らず直接検出します)。
    • 安定に波長決定できるFD-DSSを、従来のTD-DSSやPhase-mode DSSにフィードバック可能。これにより、位相イメージングの絶対精度も大幅に向上しました。ブロードバンドトランスデューサのピーク位置からメイン周波数を決定する校正作業が不要になりました。(光で言うなれば、レーザーの波長をあらかじめ知ることすら不要です!)

    7. マイクロカプセルのオンライン解析

    超音波スペクトロスコピーによるマイクロカプセルのオンラインモニタリング。シェル部分のみの物性を評価可能![2016]

    • 3相コアシェルエマルションから、マイクロカプセルの生成過程をモニタリング。
    • 液体シェルから固体シェルへの転移を観察し、シェルの厚みと弾性率を定量的に評価可能です。

    6. 詳細な散乱関数解析

    微粒子の構造と物性を同時に解析![2015]

    • 超音波の散乱関数を超音波スペクトロスコピーに組み合わせることで、粒径分布に加えて、液中に浮遊する微粒子の弾性率を非接触で評価可能に。
    • 中空粒子の計算も行い、剛体粒子と識別可能にしました。

    5. 帯電粒子の揺らぎ

    流体力学的相互作用と静電的相互作用の競合[2015]

    • 沈降速度揺らぎ、沈降に伴う長距離相互作用、粒子の協同運動など、マイクロ粒子の微粒子分散系には興味深い流体力学トピックスが未だに多いです。シリカ粒子の表面に電荷を帯びた系では、これらの競合により得意な挙動が現れることを発見しました。

    4. 運動モード識別DSS

    サブミクロン域への拡張![2014]

    • DSS解析では、音速で伝搬するパルスの伝達時間tと、実際に粒子の観測時間Tの2つの時間を用います。Tの相関関数は従来通り構築しますが、tを超音波の周波数空間に変換することで、超音波パルスの周波数ごとの粒子運動を得ることに初めて成功しました。
    • 波長の長い超音波を用いながら、サブミクロン粒子のダイナミクス解析に成功しました。
    • 一度の測定で周波数依存性が得られるので、大きな空間スケールと小さな空間スケールを一度に得ることが可能になりました。その結果、長距離・長時間の沈降と、短距離・短時間の拡散プロセスを同時に計測可能にしました。ナノ粒子とミクロン粒子の境界(拡散係数と重力の比に関係するペクレ数が1付近)では、これらが階層的に存在することを発見しました。

    3. 位相モードDSS

    スペクトロスコピー法だがイメージングできる! [2009, 2012]

    • 光やX線では強度のみですが、超音波パルスの特徴を生かして、振幅に加えて「位相解析」を実現しました。
    • 相関関数法を活用する従来のDSS法では、速度の大きさのみでしたが、符号付きで評価可能であるため、運動の「向きをも」識別可能です。例えば、沈降する凝集体と浮上するマイクロバブルを識別可能です。
    • 相関関数法のように長時間平均が不要で「瞬間」の速度が算出できるため、反応や状態変化、沈降等のプロセスをリアルタイムで取得可能です。
    • 位置の関数で取得できることに着目して、粒子沈降速度などのダイナミックな特性をイメージング可能にしました。

    2. 高周波DSS: 最初の研究

    超音波新技術をミクロン域へ拡張![2008, 2009, 2017]

    • 動的光散乱(DLS)の超音波版(DSS)を開発。試料の光学的乳濁を問題としない技術です。
    • セルの近傍のみを解析できるので、音波の多重散乱を問題としないことが特徴です。
    • John Pageらのオリジナルの2MHz DSSはミリ・サブミリメートル用でした。素晴らしい先駆的研究でしたが、我々の材料に適用するためにはさらに高周波化が必要でした。我々は、20 MHzで粒子径 3 – 30 μmを解像可能にしました。
    • 波長が一桁短くなり、空間分解能が大幅向上しています。しかしながら、単なる類似技術ではなく、「高周波スパイク発信」、「高感度受信」、「高周波特注・自作センサー」、「特注セル」、「独自後方散乱セットアップ」等ほぼ全てが新技術で構成されています。
    • 沈降速度ゆらぎの位置依存性を検出することに成功しました。

    1. MERUS法

    反応系モニタリングが可能![2011, 2013]

    • 超音波の吸収と音速測定は一般的ですが、加えて密度を同時にリアルタイムで評価可能に。
    • 弾性率や音速の自乗と密度の積であるので、定量的物性解析には密度のリアルタイム計測が必須です。
    • 高分子重合やゲル化の過程をオンラインでモニタリング可能になりました。

    研究の動機

     光の研究が盛んになる随分前から超音波の研究は精力的になされてきました。タイタニック号の事故もあって、その後潜水艦の探知などの軍事目的にも利用されるようになりましたが、今日では、非破壊検査や(胎児の超音波エコーでおなじみの)医療で有効活用され、すでに確立した技術となっています。何故、いまさら超音波を使った研究をするのでしょうか?

     我々の研究はそんな古くから知られる超音波を、今だからできる新しいアプローチでミクロな材料開発に応用するという特徴があります。光子パルス1つの中身を直接観ることはできませんが、超音波は(光と比べると)伝搬速度が遅いので、(1)大容量メモリを用いた最新の技術で高速変化する超音波パルスデータをデジタル化・オンボード記録できます。また、(2)通過したことしかわからない光に対して、超音波ならどんな材料をどのように伝搬したかもわかります。これは、光が自ら突き進む粒子であるのに対して、超音波は振動を次から次へと伝えていく波であるためです。

     最近の研究結果では、真っ白で中身の見えない(光の全く透過しない)サンプルで粒子の動きをリアルタイムで追跡しながら、かつどこを運動している粒子であるか、どの方向に運動しているかも識別する方法を開発してきました。もともと超音波の波長との関係で、検出下限は3マイクロメートル程度でしたが(上は無制限)、現在は、さらに高い周波数とより高精度な装置で化粧品や塗料に応用されるナノオーダー微粒子の研究を行っています。また、様々なセンサーに応用される超音波発信デバイスそのものの研究や、力学測定では破壊してしまうような非常に柔らかい(発泡体やクリーム)の非破壊超音波解析にも興味を持っており、現在、これらの基盤技術の確立を目指しているところです。

    以下は、古い研究トピックです

    [ 有機 – 無機ハイブリッドのミクロ構造解析 ]

    [ 高分子ゲルの構造とダイナミクス ]