京都工芸繊維大学工芸科学部 生命物質科学域高分子機能工学部門 高分子物性工学研究室

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    有機-無機ハイブリッドの論文が、Macromolecules誌に掲載されました

    米Macromolecules誌に受理された論文が、2004年12月3日付けで掲載されました。

    有機-無機前駆体を出発原料としたゾル-ゲル法は、高性能ガラスなどに応用されるナノハイブリッド材料を得るための簡便かつ有効な方法です。  ところが得られる材料の構造は、基礎研究の題材とされるような単純な系とは対称的に非常に複雑です。最終状態(すなわち膜が得られた後)の解析だけで明確な結果が得られない場合どうすればよいのでしょうか?そこで本研究では、多量の時分割データを独自に開発したシステムで系統的に解析し、材料の形成プロセスから分析を試みました。

    準濃厚系溶液およびゲルの動的光散乱測定では、しばしば通常の熱揺らぎモード(ファーストモード)に加えて、応力カップリング・巨大な凝集物や架橋クラスターの並進拡散運動に由来するモード(スローモード)が発現します。(ファースト、スローの区別は単に時間の速い・遅いで区別されるため、測定の条件(例えば濃度、散乱角度)によっては逆転もあり得ます。)スローモードに関しては安直に結論付けるのは非常に危険ですが、国際規模でも丁寧な実験・理論的解釈が行えているグループはほんの一握りです。

     さて、本研究におけるスローモードは、架橋クラスターの並進運動および粘性マトリックスとのカップリングが原因ですが、今回はこのモードではなく、ファーストモードの散乱成分(Af)を研究の主眼におきました。遅いモードは主に弾性応力の影響を受けているため、溶媒のクオリティー(良溶媒か貧溶媒か)には鈍感ですが、速いモードはそれに非常に敏感です。また、古典的な光散乱理論で、溶液系の散乱強度が浸透圧縮率と結びつけられる事は周知の事実です。このような背景から、同じシリカゲルの反応プロセスでも、酸触媒を用いた場合にはあまり速いモードが観察されないのに対して、塩基触媒を用いた場合には、シラノール基の解離によってファーストモードはそのダイナミクスの大半を占める事が知られています。

     本研究では特に、ポリ酸を超強酸性触媒としたときの特異的反応のメカニズムを解明する事を目的としました。ポリ酸をドープした複合材料に関する研究はいくつか報告されていますが、膜中に封じ込められたポリ酸がアモルファスガラス中であるにも関わらず、様々な性能を効果的に発揮できるのはどうしてでしょうか?十分大きなクラスターを形成してパーコレーション条件を満足する事や、適度なクラスター間反発を利用して系中に均一な架橋分布構造を構築する事は、「理想的な構造」設計において必要不可欠な事ですが、これを実現できるのはむしろ、初期段階で大きなクラスターを形成して、シラノール解離によってイオン反発を生じさせる事のできる塩基触媒です。以下のような動的光散乱実験からシリカ/ポリ酸系のダイナミクスについて面白い知見を得ました。詳細は論文をご覧下さい。

    Dynamic Light Scattering Studies on Network Formation of Bridged Polysilsesquioxanes Catalyzed by Polyoxometalates Yusuke Aoki, Tomohisa Norisuye, Qui Tran-Cong-Miyata, Shigeki Nomura and Toshiya Sugimoto, Macromolecules 2003, 36, 9935

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