京都工芸繊維大学工芸科学部 生命物質科学域高分子機能工学部門 高分子物性工学研究室

  • JP
  • EN
  • menu

    For industries

    当研究室でできること

    当研究室では、「液体中に分散する微粒子」の
     1.「粒径分布」
     2.「硬さ・粘性」
     3.「表面特性(ゼータ電位)」
    を、超音波法で定量的に分析することが可能です。粒子の基本特性の解析、分散安定性・凝集の評価を1つのシステムでこなします。超音波を使っていますので、「光が透過しない材料(最密充填までの濃厚系)」に活用できることに加えて、対象とする粒径が「数十ナノメートル」から数百「マイクロメートル」と非常に幅広いこと(マルチスケール)が特徴です(現在は10nm以下に挑戦中です)。超音波方式の市販装置も存在しますが、下記の点で異なります。

    • 市販の装置では粒子の構造や形態は剛体球に限られ、内部構造が反映されません。これは装置に組み込まれている解析理論のモデルによる制約です。
    • 市販の装置で粒径分布は得られますが、弾性率解析はできません。
    • 当研究室では、加えて、「中空粒子」や「コアシェル粒子」の解析が可能です。また、粒子の周りを「固体粒子で被覆したPickeringエマルション」や、「ポリマー分散剤で被覆された微粒子」の特性解析なども行なっています。

    「市販の装置では、想定していた粒径分布と結果が全然違う」と言うお悩みをよく聞きます。当研究室では、市販装置では不可能と考えられていた試料の構造や特性、分散状態を明らかにしています。

    医薬品粒子、燃料電池の電極スラリー、金属ペースト、塗料、化粧品、半導体粒子、機能性ポリマー粒子など、様々な分野で活用されています。

    既存技術との違い:超音波スペクトロスコピー(US)法

    いわゆる減衰法・透過法では、微粒子による(粘性や散乱)減衰を測定して、粒子のサイズ分布を評価します。超音波のコントラスト(信号発生の要因)は、微粒子と周りの液体の硬さの差(正確には圧縮率の差と密度の差)なので、超音波の実験で「粒子の硬さ」や、「懸濁液の粘弾性」がわかります。市販の装置は、粒子の硬さがわかっていることを前提に解析して、粒径分布だけが算出できる仕組みです。我々の場合は、(1) 同様に硬さが既知の解析、もしくは(2) 硬さも粒径も未知の状態で解析可能です。PickeringエマルションはUS方法で解析可能です。

    既存技術との違い:動的超音波散乱(DSS)法

    動的光散乱(DLS)法の超音波版です。液体中の微粒子に超音波を生ずると、散乱信号が検出されます。小さい粒子ほど速く拡散し、大きな粒子ほどゆっくりと拡散するので、緩和の速さから粒子の大きさがわかります。相関関数法を駆使する点がDLSと類似しています。カナダのJohn Page先生が考案されました。当時は、用いる超音波の周波数が低く、「ミリメートル」程度、もしくはそれより少し小さい粒子が研究対象でした。

    我々は本学で、直径「数マイクロメートル」の粒子(現在は3桁小さい10nm程度まで可能)を検出できる新しい技術を作りました。液体の中を運動する個々の粒子をリアルタイムで検出できます。John Page先生が考案されたと申し上げましたが、現在の(ミリ、マイクロではなく)ナノ粒子の解析は、信号の発生方法、受信装置、解析理論、ソフトウェアの全てが当研究室で独自に開発された新しいシステムになっています。DLSでできることは、DSSでもできますが、DSS法にも短所はあります。長所と短所は以下の通りです。

    DSS法の短所

    • 数ナノメートル程度の小さな粒子の場合、信号強度は非常に小さいです。試料が透明であれば、我々のDSS法よりも市販のDLS法をオススメします。DLS法の学術指導も行なっております。
    • ナノ粒子の場合ですが、濃度が非常に低い試料(0.01%以下)はDLSの方が高感度です。

    DSS法の長所

    • 原理的にナノ粒子濃厚系を無希釈で測定できます(詳細な物性の研究はこれからです)。
    • (光散乱法では難しい)サブミクロン以上の粒径計測ができます。試料が無色ならDLS法でも100nm以上の計測自体は行えますが、(構造因子と流体力学因子という)2つの複雑な補正項が必要な上、この値は条件によって全く異なるため、正しい評価が非常に困難です。電気的に中性の球状粒子ではこれらの効果が互いに打ち消し合うため、低濃度領域では比較的問題ないかもしれません。対して、超音波の波長は可視光よりも100倍ほど長いので比較的簡単に解析できます。
    • 光の多重散乱は問題になりません。濃厚系で仮に超音波の多重散乱が生じても、試料の手前付近だけを解析すれば単一散乱を解析できます。超音波では位相を解析するので、干渉計などの大掛かりな装置を使わなくても、容易に手前の領域だけを解析できます。
    • ビームの波長がわかっていなくても高精度に解析できます(FD-DSS法)。また、ブロードバンドセンサーを用いるため、一度の測定で複数の波長情報が解析できます。DLSに例えると、散乱角度依存性を取得しなくても、一度の測定で異なる散乱ベクトルのデータが出せます。
    • ナノ粒子とサブミクロンの凝集体の識別ができます。単体ナノ粒子はブラウン運動、凝集体は長距離の流体力学的相互作用を伴う特殊な運動を示すためです。拡散運動と凝集体の運動は、緩和時間が異なるだけでなく、メカニズムが違います。これをスペクトルの形状で識別することができるので、定量的な緩和時間評価に加えて、運動様式の解析で試料の素性がわかります。
    • 沈降する粒子や拡散する粒子に合わせて、ビームは上部、下部、水平方向などさまざまな方向のセットアップで行え、応用が自在です。
    • 数十ナノメートルから数百マイクロメートルという4桁に渡るサイズ領域を一望できるので、1次ナノ粒子、2次凝集結合体、3次軟凝集体など、階層的なダイナミクスを知ることができます。
    • ハードウェアコリレータに頼らず、マルチコアを使ったソフトウェアシステムを開発しているので、ニーズに応じたアプリケーションをそれぞれに用意でき、アップデートが自在です。デジタル社会の時代ならではですね。

    DSSの計測例

    半径25nmのシリカ粒子(青)と半径50nmのシリカ粒子(赤)をさまざまな比率で混合した結果です。注釈は散乱強度での比率を表しています。実線で示す粒子径の予測線にほぼ合致しています。これからわずかな粒径分布があっても、DSS法ではこれらが識別できることがわかります。

    次の図は、半径40nm程度のシリカ粒子の希薄系(0.12wt%)と濃厚系(45.3wt%)を測定した結果です。短時間側のカーブフィットから平均粒径が算出できます。また、濃厚系で生ずる微量の凝集体を検出可能です。

    産学連携共同研究や学術指導の実施例

    民間企業と大学で半々で情報を出し合い共同で研究活動を行う場合と、民間企業様に対して技術指導を行う契約形態があります。すでにお付き合いのある民間企業様との信頼関係があるため、現在行なっている共同研究と重複する分野の依頼はお受けしておりません。まずはご相談くださいませ。