京都工芸繊維大学工芸科学部 生命物質科学域高分子機能工学部門 高分子物性工学研究室

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    動的超音波解析の論文が掲載されました:濃度の制限を受けない粒径測定法DSS

      2024年3月24日付けで、
    Elsevier社のColloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects誌に投稿していた論文
    “Nano and Submicron Particle Sizing in Concentrated Suspension by Dynamic Ultrasound Scattering Method”, Kana Kitao, Misaki Tani, Manami Yamane, Shinichiro Inui, Mao Yamada, and Tomohisa Norisuye, Colloid Surf. A, 133807, 2024 (DOI:10.1016/j.colsurfa.2024.133807)
    が受理されました。

    動的光散乱(DLS)法の超音波版である高周波数-動的超音波散乱(DSS)法は、波長の長い超音波を用いながらも、ナノ粒子の拡散計測から液中無希釈で粒子径を求められる手法です。2022年に高精度なナノ粒子計測を実現していましたが[1]、本研究は30vol%の濃度の高い試料(10vol%程度で濃厚系と言われる場合もあるようですが)に対応する方法について述べた論文です。最近のDLSでは濃厚系で測定できる技術が発表されていますが、本研究では光に固有の問題を超音波で根本的に回避する方法が述べられています。

    図1 動的超音波散乱(DSS)法では、相関関数の時間緩和の速さから粒子の大きさを算出します。光が透過しないほどの濃度の高い試料でも測定可能です。

    我々が高周波数DSS法を開発したのは、超音波相関スペクトロスコピー(動的音波散乱法)法[2]もしくは音響拡散波分光法[3]をカナダのJohn Pageらが開発したことがきっかけです。ただし、これらの手法は2MHz程度の比較的低い周波数で、サブミリメートルの複雑流体ダイナミクスや多重散乱を伴う波動伝播を研究するために用いられました。一方で材料科学の技術としてはナノはおろかミクロンサイズの粒子でも検出することができませんでした。これには高い周波数の超音波発信に加えて、コヒーレントに観察するために、ブロードバンドセンサーを(レーザーのように)狭帯域化させる技術が必要です。同じ濃度なら粒子サイズが10分の1になると、信号強度は1000分の1になるため、ナノ粒子計測が如何に困難であるか想像がつくと思います。我々は、全く新しい高周波超音波の送受信(ナノDSS[1])と解析のシステム(FD-DSS[4])を構築し、ナノ粒子計測を実現しました。

    図2 濃度が高くなると粒子間の干渉が生じますが、超音波は波長が長いので、ナノ粒子でもサブミクロン粒子でも長波長の概念で濃厚系の粒子が評価可能です。

    DSS法は、濃度の高いナノ粒子計測にも活用できますが、濃度の高いサブミクロン粒子ではさらに威力を発揮します。光の波長と同程度のサブミクロン粒子は強い光のMie散乱を引き起こし、乳濁した試料を光が透過しない問題や多重散乱による解析の複雑さがしばしば取り上げられています。しかし、濃度の高い試料に固有の問題は、粒子の配置に起因する構造配置の考慮や、さらに複雑な流体力学的相互作用が発動することです。そのため、DLSでは濃度の高い試料に光が入射しても、計測できる拡散係数が散乱角度に依存して(散乱ベクトル依存性が周期的に振動して)粒子径の決定が困難になります。我々の提案は、あえて波長の長い超音波を使い、一旦ターゲットをミクロン粒子などの大きな粒子解析とした上で、技術革新によりよりナノレベルの構造解析を実現することでした。ナノ粒子はもちろんサブミクロン粒子は、超音波の波長よりもはるかに小さな構造体であるため、構造因子は熱力学的な圧縮弾性率に、流体力学関数は沈降関数に置き換えて、空間スケールパラメータで解析結果が左右されないようにできるのです。これにより、濃厚系固有の粒子径解析法を根本から解決しました。

    詳しくは論文をご覧ください。

    図3 ブラウン運動に伴う粒子の拡散は、大きな視野ではコヒーレントに動くモード(協同拡散)、小さな視野では個別に動くモード(自己拡散)となります。粒子の濃度が高くなると、前者は速く、後者は遅くなるのでのですが、サブミクロン粒子の濃度を上げていくと、両方の効果が出てしまいます。超音波は波長が長いので、常に協同拡散係数というシンプルかつ定量的な解析が実現します。

     

    [1] Kitao, K., 2022, Nanoparticle Sizing by Focused-Beam Dynamic Ultrasound Scattering Method, Ultrasonics, 126, 106807.
    [2] Cowan, M. L., 2000, Velocity Fluctuations in Fluidized Suspensions Probed by Ultrasonic Correlation Spectroscopy, Phys. Rev. Lett., 85, 453-456.
    [3] Page, J. H., 2000, Diffusing acoustic wave spectroscopy of fluidized suspensions, Phys. B, 279, 130-133.
    [4] Igarashi, K., 2014, Dynamics of submicron microsphere suspensions observed by dynamic ultrasound scattering techniques in the frequency-domain, J. Appl. Phys., 115, 203506.