LS Instruments社製の動的光散乱システム
LS Instruments社(スイス)製の動的光散乱(DLS)装置を導入しました。ここでは、最近のDLSの進化と、今後の課題について、(少しですが)記述します。詳細な方法の説明は後にして、まずは40wt%の123nm-シリカ粒子懸濁液のDLS測定の例を示します(※1)。
- 図1 従来のDLS法と等価な擬似クロス相関(2D自己相関)法
- 図2 3D変調クロスDLS法
図の中で、上段が生データである強度時間相関関数g(2)(τ)、下段が解析された散乱強度表記の粒径分布G(Γ)です(※2)。従来のDLS(2D-Pseudo-Cross Correlationと等価)法では、粒子径がかなり小さく評価されていますが、新しいDLS(3D-Modulated-Cross Correlation)法では、おおよそ粒子径を評価できているように見えます。この図を見て驚きなのは、従来のDLSの方が相関関数の「データは綺麗」なのに、全く誤ったデータが算出されることです。一方で、多重散乱を回避する新しい方法では校正された粒径に近い値が評価されています。この点が3D変調クロス相関DLS法の素晴らしい点です。後者における注意点は、相関関数の初期振幅がかなり減少することです(※3)。
装置について、説明します。これは、新しいタイプのDLS装置で、日本国内では初導入だそうです(※4)。120mW-波長638nmのレーザーと、散乱角度が可変のスペクトロメーターLS Spectrometer IIから成ります。この装置は、レーザー光源を2つに分け、試料から散乱した光を2つの検出器によるクロス相関信号を取得します。
- 1つの光源の光を2つの検出器で擬似的にクロス相関解析するだけでも、アバランシェフォトダイオードに固有の短時間側の偽信号(1つのパルスで誘発される別のパルスの相関)を回避できるメリットがあります。つまり、緩和が非常に速い低分子の測定ですこぶる有用です。これを擬似クロス相関法と呼びます(2D-Pseudo-Cross Correlation)。検出機が1つの自己相関関数を取得する通常のDLSとは異なります。
- 次にビーム2つに分け、散乱した信号を2つの検出器で測定する方法を、3Dクロス相関法と呼びます(3D-Cross Correlation)。この方法では、ある程度の多重散乱を回避しますが、それぞれの検出器に別の空間(散乱ベクトル)の情報が悪影響し、相関関数の初期振幅が著しく減少します。
- そこで、今回用いたのが、3D変調クロス相関(3D-Modulation Cross Correlation)法です。2つのビームを緩和時間よりもかなり速いタイムスケールでスイッチングして、多重散乱光を回避する装置となっています。
おおよそ123nmシリカ粒子に由来する信号は取得できましたが、濃度の高いサンプルの粒径計測にはまた別の問題が発生します(粒径が小さく評価される)。動的超音波散乱(DSS)法では(図3)、以上のような光の多重散乱の問題に加えて、複雑な粒子の配置や相互作用の効果(拡散係数の散乱ベクトル依存性のスペクトル振動)をかなり低減できます。
- 図3 FD-DSS(周波数ドメイン動的超音波散乱)の結果
(※1)冒頭で123nmと言ったのは、TEMで観測した粒径です。得られた粒径の数分布N(d)からさらに散乱強度の重み付けを行ったZ平均拡散係数に基づく粒径分布Z(d)を求めています。このようにしてDLSで求まる粒径をあらかじめ計算しています。CVは粒径の標準偏差を平均値で規格化した変動係数です。
(※2)Γは緩和時間の逆数です。CORENN法で得られたデータです(CONTINのような正則化逆ラプラス変換)。波長に対して十分に小さい粒子の場合には、散乱強度は粒子直径の6乗に比例します。つまり、多分散な場合には大きな粒径が強調されています。操作上は、数分布に変換することも可能です。
(※3)推奨されるレベルよりもかなり初期振幅が小さい条件(0.04程度が下限)で使ってしまっていますが、参考になればと思い、あえて非常に難しい例を公開しました。また、水の屈折率は1.33程度、今回の測定シリカ粒子の屈折率は1.44程度、ちなみにポリスチレンの屈折率は1.59程度です。40wt%という高濃度で測定できたことは驚きですが、ポリスチレンなどの他の粒子になるとその条件は変わってくると思われます。3D変調クロス相関DLS法と、3Dクロス相関DLS法では初期振幅が約4倍違います。よって、濃度の高い試料では変調がかけられるDLSが圧倒的に有利です。
(※4)装置はスイスのLS Instruments社製で、日本販売店は日本カンタムデザインさんです。私たちは3D変調クロス相関DLS装置については単なるユーザーです。濃厚系試料のDLS解析は、我々が研究室内で独自に研究しています。