京都工芸繊維大学工芸科学部 生命物質科学域高分子機能工学部門 高分子物性工学研究室

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    コロイドソームとPickeringエマルションのシェル特性の論文を発表しました。

    “Connectivity of elastic particles surrounding a liquid droplet: ultrasonic scattering analysis from Pickering emulsions to colloidosomes” by Mayu Hiromoto, Mayuko Hirano, Mao Yamada, Tomohisa Norisuye, Jpn. J. Appl. Phys., 64(2), 02SP23, 2025

    水と油は混ざりませんが、水に少量の油と界面活性剤を添加して激しく攪拌すると、水中で油滴を安定化できます。このようなエマルションの調製には一般的に低分子界面活性剤もしくは高分子分散剤が用いられますが、油滴は、ナノもしくはミクロンサイズの固体粒子でも安定化できることが知られています。さらに油滴を覆う固体粒子を熱融解して連結することでカプセルを作ることもできます。このカプセルは、広大な比表面積を有し、細孔を通じて物質交換できることから、化粧品、電子材料に加えて生物、医学的な応用も期待できる材料です。本論文は、ヘキサデカンという有機溶媒の液滴の周りをポリスチレン(PS)粒子が被覆したPickeringエマルション(PE)や、PSのガラス転移温度付近でPS粒子を融着したコロイドソーム(CS)を合成し、新しい超音波研究を行いました。

    超音波法は、光が透過しない高度に乳濁した試料でも伝播することから、古くから粒子径分布を調べる手法として用いられてきました。粒子や連続相液体の物性情報を使って粒径分布を算出する研究も行ってきましたが、逆に粒子径が他の方法で求まっている場合には、液体中の粒子の特性を無希釈で調べる事も可能です。光やX線などの電磁波散乱法とは異なり、構造のみならず構造体内部での力の伝搬を調べることができる超音波法は、我々が世界に先駆けて開発した技術です。

    Pickeringエマルション(PE)において、油滴の周りには固体粒子が被覆されています。この状態は、例えば、セラピーのために磁性粒子で修飾したPickeringエマルションなど、様々な材料・医療応用において重要です。油滴の周りを固体粒子が敷き詰められて被覆された状態にある場合、複数の固体粒子は油滴の周りを覆うシェルのように見てとれるでしょう。しかし固体粒子に隙間が多いと、PEの表面にある固体粒子同士の距離が遠すぎるために、粒子間には力が伝わらない事が容易に想像できます。

    PEの表面に存在するPS粒子を少し溶かして、PS粒子同士を連結させてみましょう。この状態では油成分であるヘキサデカンを取り去っても、PSのシェルが形状を保ってくれるでしょう。このような中空粒子はコロイドソームと呼ばれており、コアシェル構造を有したマイクロカプセルでありながら、連結されたPS粒子の間の隙間を通じて物質の交換が可能です。

    本研究では、新しい超音波解析を提案しました。PEやCSに超音波を照射するとどのような信号が返ってくるのでしょうか?粒子の大きさと超音波の波長が同程度である場合には、超音波の共鳴散乱が生じます。密度が均一で中身が一様な球状粒子と違って、PEやCSはコアシェル構造を有しています。さらに、PEにおいてシェル部を担うPS粒子間の距離は、塩の添加で化学的に制御可能です。また、PS粒子を融着してできたCSのシェルはどの程度強固なのでしょうか?本研究では、コアシェル構造の共鳴散乱を解析し、PEとCSのシェルの違いを明らかにしました。具体的には、四重極共鳴という周波数ピークが、従来よりも低い周波数と高い周波数の2つに分かれ、これがシェルの弾性の発現を見る直接的手段となることを示しました。