微粒子1個のレベルでガラス転移温度の異なるポリマーの硬さを研究(JJAP誌)
2024年1月12日付けでJapanese Journal of Applied Physics (Special Issues)に投稿していた、「液体中の非晶性微粒子の弾性共鳴」に関する英語査読論文が受理されました。
我々の研究室では、力学的情報がコントラストである超音波を使って、液体中のナノもしくはミクロン微粒子の特性を研究しています。単純に超音波の技術と言っても、粒子の運動状態から粒径を評価する技術(DSS法)、粒子の硬さを評価する手法(US法)、粒子の表面電荷状態を判別する手法(ESS法)など、大きく分けて3つの技術を生み出してきました。特に、DSSおよびESS法は、他に類似手法がない我々独自の技術です。本研究では、US法を使って液体中に浮遊する、液滴の硬さや、固体粒子の硬さを非接触で調べました。
(例えばポリスチレンをトルエンに溶かした)高分子溶液を、水中に乳化すると、有機溶媒と高分子を主成分とした液滴が水中に分散したエマルションになります。この液滴から溶媒を蒸発させると、いつか固体の粒子になるはずです。その液滴が、どの程度濃縮するまで液体、もしくは固体なのかは、前回の論文に示す方法で知ることができると述べました。また、水中に分散するこの液滴もしくは固体粒子の硬さは、直接触れずとも超音波で調べることができます。本研究では、さまざまな素材の高分子を取り上げ、乾燥過程における超音波物性を調べました。これらの高分子は溶媒が乾燥し切った状態で、ガラス状の固体であるものもあれば、液体にとどまるものもあります。本研究ではこれらの高分子微粒子に対して、ずり弾性率という固体の性質を表す特性を、ガラス転移温度の関数として明らかにすることを目的としました。粒子を構成する高分子は、ガラス転移点を境に、ミクロブラウン運動という熱運動を開始します。そのため、ガラス転移は、粘度と関連付けて調べられてきました。せん断弾性率は、固体の性質なので、ガラス転移点からは遥か低温の性質に対応します。これを、小さな粒子のレベルで取り扱った研究はこれまでありませんでした。
一般的に弾性や硬さと言っても、水が圧縮しにくいという体積弾性や、固体が曲げにくいというせん断弾性など、さまざまです。圧縮の寄与は弾性率の値が大きく、超音波ではほぼ圧縮弾性の寄与が反映されます。一方で、せん断弾性率は体積弾性率よりもかなり小さいため、従来は非接触解析が長所である超音波でもってしても、水中の微粒子のせん断弾性率の評価は非常に困難でした。また超音波散乱の学問分野では、EpsteinとCarhartによる液滴のズリ粘性を考慮した理論と、AllegraとHawleyによる固体粒子のせん断弾性を考慮した理論がありました。これらは合わせてECAH理論と呼ばれることが多く、粘性や弾性評価に活用できます。しかし、水中に分散した液滴の場合はECモデルを、水中に分散した固体粒子の場合はAHモデルを使い、粒子が粘性も弾性も同時に有する場合の研究はなされてきませんでした。これは、液体の場合には流れの釣り合いを考え、固体の場合には変位の釣り合いを考えるためです。我々は、これを一般化した粘弾性ECAH解析という概念を打ち立て、液滴から固体に転移するプロセス全体を解析できるようにしました。この転移の途中では、粒子が粘性損失も貯蔵弾性も両方含む状態を定量的に解析可能です。
また、超音波スペクトロスコピー(US)法には、事前に知っておくべき試料の特性が非常に多く、簡単にせん断弾性やせん断粘性を求めることが困難でした。本研究では、ミクロンサイズの粒子にはなるのですが、簡単に弾性率を知る方法も述べました(論文の付録)。この論文は、超音波学会の特集号のために執筆したのですが、査読制の英文誌です。水中に分散する微粒子の共鳴散乱を研究した粒子弾性率解析にご興味のある方はぜひ論文をご覧ください。