高濃度かつ多分散なシリカナノ粒子懸濁液の動的解析の論文が掲載されました。
「高濃度」かつ「多分散」なシリカ粒子懸濁液を、ナノ動的超音波散乱(nano-DSS)法という新手法で解析する論文を発表しました。
高濃度の微粒子懸濁液は、高度に乳濁しており、光散乱法などの光学的手法で分析することは極めて困難であることが知られています(図1)。

図1 濃度の低い(左)と高い(右)微粒子懸濁液の光散乱実験の模式図。濃度が低いと光が十分に透過し、それぞれの粒子の情報を正しく解析できます。しかし、高濃度では多重散乱と呼ばれる複数の粒子で散乱した光が同時に検出器で検出されるため、うまく粒子径を評価できないことが多いです。
我々は、超音波を用いた独自技術を開発しており、これまでの先行研究でナノ粒子およびサブミクロン粒子に対するDSS法の有用性について発表してきました。この基礎情報としては、以前の記事をご覧ください。高濃度かつ多分散なシリカ粒子懸濁液の研究はこれまでも行なってきましたが、最近、シリカ粒子の「表面電荷」が粒子の特性に奇妙な効果を及ぼすことがわかってきました(本来、静電的相互作用の影響が消えるはずの粒子濃度で消えていない)。本研究では、DSS法でのみ知ることができる、「超高濃度」状態における「多分散」なシリカ粒子懸濁液のダイナミクス(粒子の拡散)について説明します。
超音波なら、40wt%以上の高濃度のシリカ粒子懸濁液を難なく透過して、粒子の運動状態を調べることができます。しかし、この研究は、単に透過したビームを使って粒子を「測る」だけではありません。高濃度の微粒子懸濁液は、相互作用が非常に複雑であり、希薄系で培われた解析法をそのまま使うことができません。まず、粒子径に分布がある場合、粒径分布を特徴づける、平均粒径、分布の幅、分布の非対称性、分布の裾の引き方などを考慮しながら、粒径分布を解析します(図2)。

図2 モーメント展開と呼ばれる方法で、粒子径分布の情報を取り入れながら高濃度の微粒子懸濁液の解析を行います。
ここで粒子間相互作用は、それぞれの粒子径によって異なり、さらにマクロ(協同モード)とミクロ(自己モード)の観点など、探査する波長によって寄与が異なります(図3)。

図3 横軸のqdが小さいとマクロな視野、qdが大きいとミクロな視野に対応します(qは散乱ベクトルの大きさ、dは粒子直径)。大きな視野では複数の粒子が協同的に動いていることがわかり、ミクロな視野では特定の粒子に着目してその孤立粒子そのものの動きがわかります。中間の波長では、これらのどちらとも言えない状態になるため、解析が非常に難しくなります。DSS法では必ず、qdの小さい条件で測定が行えるため、相互作用を単純化して解析できます。
今回用いたサンプルは数平均で直径61nm、多分散度が26%の比較的分布の広いシリカ粒子です。このサンプルは元々の溶液に適量の塩が含まれており、過剰な表面電荷の影響は遮蔽されているのですが、多分散な粒子の場合には、その静電的相互作用がまだまだ影響していることがわかりました。本論文では、適切な塩濃度の条件下で、高濃度かつ多分散な粒子径分布の評価が行えることを示しました(図4)。

図4 DSSで得た平均粒子径dzおよび多分散度CVzの解析結果(zは散乱強度の重み付けがされている意)。低濃度ではある程度の(50mM)塩が添加されていれば正しい測定ができますが、粒子濃度が高い場合には100mMもの塩濃度を必要とすることがわかりました。単分散ではこのようなことは起こりません。
また、最近話題になっている高濃度条件で活用できる3次元変調クロス相関型の動的光散乱(3D-mod-DLS)法の有用性についても調べました(図5)。

図5 3D-mod-DLSで得た平均粒子径dzおよび多分散度CVzの解析結果。超低濃度では少量の(10mM)塩が添加されていれば正しい測定ができますが、粒子濃度が5vol%程度になると、DSSの結果と同様に、静電的相互作用の影響が持続することがわかりました。DLSは少し粒子径が小さく見積もられることが問題点ですが、値は比較的近く、傾向は正しく捉えています。DSSとTEMは合致しました。
DSS法ほど高濃度には適しませんが、ある程度の濃度まで3D-mod-DLS法が使え、DSSの研究結果を支持する結果を得ました。光散乱では光の波長が数百nmですので、高濃度条件では相互作用に波長依存性が出てしまうことが難点ではありますが、おおよそ同等の答えを出すことができます。本論文では、高濃度かつ多分散な粒子懸濁液に対して、我々が独自に開発しているDSS法の能力が確認できました。

