京都工芸繊維大学工芸科学部 生命物質科学域高分子機能工学部門 高分子物性工学研究室

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    ソルビトール液滴の粘弾性解析の論文が掲載されました。

    2025年12月27日付けでIOPscienceのJapanese Journal of Applied Physics誌に投稿していた、超音波と微粒子の共鳴現象に着目した微粒子の粘弾性解析の論文が掲載されることになりました。

    材料の硬さを試験する場合、繊維なら引っ張り、フィルムなら曲げるなど様々な方法があります(図1)。しかし、肉眼では見えないような、小さな小さな「微粒子」を、しかも「液体中に存在したまま」で、硬さを知るにはどうすれば良いのでしょうか?

    図1 一般的な引っ張り試験と曲げ試験の模式図

    本研究では、微粒子の粘弾性特性を、超音波解析で非破壊で評価する論文です。我々は、超音波散乱を特に専門とする研究グループですので、これまでは数学および物理モデルを使って(逆行列を解いて)、粒子の「大きさ」や「弾性率」を厳密に評価する方法を生み出してきました。しかし、この技術を使うためには、粒子の弾性、密度、さらには圧縮波である超音波が固体微粒子に入射する際にせん断波に変換される波動物理学の知識を必要とし、何よりも解析に、密度、固有吸収、粘度、熱物性など、多くのパラメータを必要としていました。いわゆるECAHモデル(Epstein, Carhart, Allegra, HawleyによるECAH理論)は、球状粒子による超音波散乱の代表的モデルです。

    本研究では、このような厳密な超音波散乱理論の知識を使わずに、非常に簡便に微粒子の粘弾性を評価する方法を提案しています。微粒子の大きさに合わせて適切な周波数の超音波を照射すると、図2に模式的に示すような強力な共鳴信号が観察されます。そこで、その信号が観測できるピーク周波数(fmax)と、その周波数のピーク幅(PW)だけを使って、粒子の弾性G‘と粘性損失G”を評価できるようになりました。この微粒子と超音波における共鳴散乱は、粒子の表面を周回伝搬する表面波が強め合う現象を利用しています。

    図2 超音波減衰スペクトルの周波数ピークと周回する表面波の模式図

    この現象をクリアに捉えるために、サンプルにも工夫を凝らしています。図3に示すソルビトールは、6価の糖アルコールで、甘味料や保湿剤で広く用いられています。ソルビトールを少量溶かした水溶液は水のようにシャバシャバしていますが、溶かす量を増やしていくと非常に高粘度となります。この状態では液体のように粘性がありますが、固体のような弾性も示します。さらに濃度をあげると、かなり硬い弾性体にまで変わります。つまり、ソルビトールの水溶液から、水分を蒸発させていくと、一連の乾燥過程で、「低粘性」希薄溶液から、「高粘度」粘弾性液体を経由して、「固体」弾性体までを統一的に観察できるはずです。本研究では、このソルビトール水溶液を、さらに、「水滴」として油に対して乳化しました。すなわち、油中水型(W/O)エマルションの中で、水滴一個レベルの粘性や弾性の解析を実現しました。

    図3 低粘度液滴、高粘度液滴を経由して、弾性球状粒子になるソルビトール液滴の模式図

    我々の先行研究では、超音波減衰係数の周波数スペクトルに出現するピーク周波数を読み取り、表面波音速もしくはせん断速度に変換する方法を発表しています。これからせん断弾性率が定量的に求まります。この研究では、粒子は完全弾性体とし、粘性損失の成分を無視していました。しかし、常温でゴムや水飴のような材料は、弾性に加えて高度な粘性損失を示します。この挙動は、前記した減衰係数スペクトルの広幅化をもたらすので、これから粘性損失を把握することができます。厳密な超音波散乱散乱理論を使うのも良いのですが、「誰でも簡単に」「粒子内部の」弾性と粘性を評価できるようになりました。

    “Determination of Complex Shear Modulus of Microparticles by Ultrasonic Spectroscopy via Resonant Scattering Analysis ”, Kazuto TSUJI, Tomohisa NORISUYE, Jpn. J. Appl. Phys. (2026), DOI: 10.35848/1347-4065/ae3325